【創作BL】隣の可愛い人【#002】
「俺、透さんの恋人に立候補していいですか…!?」
目の前に立つ可愛い男子高校生が、頬を紅潮させている。
(…なんて言った?)
透は思わず言葉を失った。
けれどそうと悟られないよう、いつもの笑みを心がけて応答する。
「陽翔くんと私とじゃ、歳が離れすぎてるよ」
目の前の陽翔(ひろと)という男子高校生は1年ほど前に透の隣に越してきた“お隣さん”だ。
いつもニコニコとしていて愛想が良く、何度かお裾分けをもらったこともある。
良好な関係を築けていると思っていたので、
まさかの「立候補」に透は仰天した。
多感な10代の男の子だ、何か勘違いさせてしまったのかも知れない。
もしくは、大人と交際してみたいという好奇心から来た発言かも知れない。
なんにせよ、まともに応じてしまうのは、彼のためにも、自分のためにも良くないだろう。
透はそう思い、年齢を盾にやんわりと拒否を示してみた。
しかし…
「と、歳なんて、関係ありません!俺、もっと魅力的な男になるので、待っててください!」
陽翔の眼差しは眩しいほどに真っ直ぐだった。
その邪気のない眼差しを浴びると、自身の中の汚れた部分を自覚してしまう。
自分にも、こんな無邪気な時期があったのだろうか。
あったとすれば、それはもう遥か昔のことだ。
陽翔のことは好きだ。
好感を抱いている。
だが、それだけだ。
これくらいの年齢の子供で、「自分は同性が好きかもしれない」と勘違いすることは少なくない。
一部の人間はそのマイノリティに骨を埋めていくだろうが、
大半の人間は、そうではない。
大人になればそんな迷いなどなかったかのように“当たり前の道”を歩んでいく。
透は“大半の人間”ではなかった。
“一部の人間”に該当し、自身のマイノリティを受け入れている。
きっと何か、自分が陽翔に対し勘違いさせる何かをしてしまったのだろう。
心の中で苦虫を潰しながら、表情だけはいつも通りを心がける。
「ありがとう、楽しみにしておくね」
透がそう言うと、陽翔は分かりやすく肩を落とした。
自分の気持ちを隠そうとしない(隠し方を知らないのかもしれない)陽翔に可愛らしさを感じる反面、
悪い大人に騙されないだろうかと心配になってしまう気持ちもあり、
ほんの少しだけ、そんな真っ白で綺麗な陽翔を自分の手で汚してしまいたいような気持ちにも駆られる。
嫌な大人になったものだ。
「ほら、陽翔くん、急がないと学校遅刻しちゃうんじゃない?」
「あ!そうだった!」
透の言葉にハッとして、陽翔は手にしていたゴミ袋をゴミ捨て場に投げると、透に頭を下げた。
「それじゃあ透さん、行ってきます!透さんもお気をつけて!」
「あ、待って、陽翔くん」
透が陽翔に近づく。
そっと伸ばした透の手が、陽翔の側頭部に触れた。
「へ!?」
「寝癖、ついてるよ」
わざとだった。
寝癖などついていなかったけれど、自分のことを好きだと言う彼の反応を少しだけ見てみたい気がしたから。
「あ…ありがとうございます…」
透の手が陽翔の頭を撫でると、みるみる陽翔の顔は赤くなった。
反応に困ったように、眉を八の字にして目線をウロウロと彷徨わせている。
「学校に行く前でよかったね」
透はそう言いながら、性格の悪い自分に内心苦笑した。