【創作BL】俺のことだけ考えて【#008】


──四日目。

土曜日の学校は、いつもの喧騒を忘れさせるように静かで、悠馬は嫌いじゃなかった。
生徒のいない静かな廊下を2人の足音だけが響く。

早朝に凌と駅で待ち合わせたものの、悠馬は今日は一度も凌と目を合わせられずにいた。
理由は一つだった。

── 一週間が終わるまで、俺のことだけ考えて。俺と一緒に過ごして、俺とだけ話して、俺のそばにいること。

昨日の凌の言葉が蘇る。
同時に、あの射抜くような視線。

恐怖とも嫌悪とも違う、あの目に見つめられていると、ゾクゾクと体の奥の方からなんとも言えない身震いするような何かが体を襲う。

校舎に到着して体育館に向かう2人は終始無言だった。
凌が悠馬に話しかけないのはいつものことだが、悠馬が黙っているのに違和感を感じたのだろう。
2人が部活着に着替えて誰もいない体育館に入ったタイミングで、凌が悠馬を呼んだ。

「悠馬」

何度目かの凌の呼びかけに悠馬はハッとして顔を上げた。

気づけば、誰もいない体育館。
目の前には、少し不機嫌そうに眉根を寄せた凌の顔があった。

切れ長の目がこちらを見ている。
まただ、またあの感覚が…

一歩、凌が悠馬に近づいた。
反発する磁石のように悠馬は一歩後ずさる。

「悠馬」

再び凌が悠馬の名前を呼ぶ。
決して大声ではないはずなのに、誰もいない体育館に響き、悠馬の鼓膜に届く。

ブワッと頬が火照るのがわかった。

「悠馬。呼んでるんだけど、何ぼーっとしてるの?」
「なっ…何でもない…」

ジリジリと、凌が距離を詰めてくる。
その度に悠馬は後退り、もう下がれない壁際まで来てしまった。
ドンと、凌が壁に肘を突き悠馬を至近距離で見下ろす。

「悠馬…顔、真っ赤。名前呼んだだけだよ?」

「あ…」

「もしかして、昨日のこと思い出してる?」

昨日のこと…
言われるとまたフラッシュバックする。
自分のことだけ考えろという彼の言葉が。

「ち、ちが…」

悠馬は顔を背けた。
それでも凌の視線が自分の耳元に注がれているのがわかって、じわじわとまた熱が昇ってしまう。
「素直じゃないね」

凌のひんやりとした指先が、悠馬の熱い耳に触れた。
ぴくんと悠馬は肩を振るわせる。

「そんな顔されると…」
「ま、待って、凌、近い…」
「動いちゃダメ、命令ね」

魔法の言葉が、悠馬を縛る。
ただの言葉であってなんの効力もないはずなのに、
「命令」だと言われると途端に体は動かなくなる。

「良い子だね、悠馬。そのまま俺のことだけ考えてて」
「べ、別にっ…凌のことなんかっ…」
「考えてない?」
「考えて…ない…」

強く言い切ればいいのに、考えてないと。
こんな言い方では説得力などありもしなかった。
揶揄うような笑みを含んだ凌の声音が続いた。

「じゃあなんでそんなに顔真っ赤にしてるの?嫌なら逃げればいいじゃん」
凌の冷えた指は耳から首筋をなぞるように移動した。
くすぐりに弱い悠馬は身を捩りたい衝動に駆られたが、「動くな」と言われている。

「んっ…それは…言うこと聞くって、約束…だから…」
「それだけ?」
「そ、それだけ…!」
「ふーん」

そう言いながら凌の指が首筋から離れた。
「俺の言うこと聞く癖が、抜けなくなればいいのにね」
「1週間だけ…だから…」
「早く終わってほしい?」

早く終わってほしいかと聞かれたら…もちろん、早く終わってほしいに決まってる。
悠馬は咄嗟に声に出そうとしたが、それより早く凌の声が遮った。

「じゃあ命令ね。嘘、禁止」

「え…」

「嘘つくの、禁止だよ、悠馬」
「そ、それは…」

突然の追加の命令に悠馬は困惑した。

「悠馬。1週間、早く終わってほしい?」
「えっと…」

簡単なことだ。本当のことを言えばいい。
早く終わってほしいと。一週間なんてさっさと終わればいいと。

悠馬は息を吸い込んだ。

桃瀬薫
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