【創作BL】言葉にならない想い【#006】


──三日目。

朝の最寄り駅で凌を見つけると、悠馬は小走りに駆け寄った。
「凌、おはよ」
悠馬は凌に手渡される前に自ら手を差し出した。
「カバン、持つ」
「ん」
差し出された手に満足したように、凌は軽く口角を上げると、スクールバッグを悠馬に渡した。

「昨日のクレープ、美味かったな」
2人並んで学校へ向かう途中、悠馬が口を開いた。
友達と遊ぶことも多い悠馬だが、行くのはいつもゲーセンやカラオケだったため、クラスメイトとクレープを食べるというのはなかなか新鮮な経験だ。
「そうだね」
相変わらず考えてることの読めない凌だったが、何だか今日はいつもより機嫌がよく見えた。

***

「悠馬くん、あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
教室についてすぐ声をかけられた。
クラスの学級委員をしている女子生徒だ。
声をかけられ反射的に応答しようとすると、隣にいた凌が遮るように声を発する。

「悠馬、今日喋れないくらい喉が痛いんだって、ごめんね。俺でよければ用件聞くけど、どうしたの?」
さらっと嘘をつく凌に悠馬は驚いた。パッと凌の顔を見ると、なんてことない平然とした様子だ。
「あっ、そうなんだ…この間のプリント、まだ提出してないみたいだったから…今持ってる?」
女子生徒はそんな凌の言葉を信じたらしく、話を続ける。
悠馬は物言いたげに凌の顔を見る。すると、目が合った。
隣にいる悠馬にしかわからないくらい薄く、しかし意地悪くニヤリと口角を上げた。
「悠馬、プリントだって。この間俺と解いたやつじゃない?」
「え?あ、あぁ…」
突然話を振られて、悠馬は慌てて机の中を漁る。
目的のプリントが見つかると、凌が悠馬の手からひったくり、女子生徒に渡した。

「わざわざありがとね。ごめんね、悠馬のせいで面倒かけて」
そう女子生徒ににこやかな笑顔を向ける凌に、悠馬の胸はモヤついた。
「お、おい…俺のせいでって何だよ…」
小声で凌に抗議したが、無視された。

「ううん、いいの!凌くんはいつも優しいよね…」
そう言ってホッとしたように女子生徒はプリントを受け取った。
優しいと褒められた凌は変わらぬ笑顔で爽やかに応対している。
「そんなことないよ」

悠馬は女子生徒と凌を交互に見た。
凌がどれほど捻くれた奴かということをここで大声で言い表したかったが、
自分は「喉が痛い」らしいので黙っていることにした。

「じゃあ、悠馬くん、お大事にね」
手を振り去っていく女子生徒を見送った後、悠馬は凌に向き直った。

「おい、凌、どういうつもりだよ」
「何が?」と返す凌の声のトーンにはもう、先ほどの優しさはない。

「俺に対する態度と違いすぎるだろ!」
「別に、普通だけど?」
「俺にはごめんねだとか、ありがとうだとか、言ったことないだろ!」
「言ってほしいの?」

またニヤと意地悪く口角を上げた凌に悠馬はムッとする。

「言ってほしいっていうか…なんていうか…と、とにかく、なんか腹たつ!」
この言いようのないモヤモヤはなんと言葉にすればいいのか、悠馬の中の辞書にそれを表す単語が見当たらなかった。

「でも、約束ちゃんと守れたね、悠馬。良い子」
「なっ…!」

“良い子”

それは犬やそれに値するペットに言う言い方だったのかもしれない。
現に、凌は自分を下に見ているに違いない。

わかっていても、ただ「褒められた」という事実が、無性に悠馬の胸を躍らせた。
(褒められた…!)

「その調子で、一週間頑張ってね」
そう楽しそうに微笑む凌に、悠馬の耳が熱くなる。

「べ、別に…!これくらい、楽勝だし…」

思わず口角が上がりそうになるのを、下唇を噛んで耐えた。
「ていうか凌…、ほんとに俺に喋らせない気か?」
「当たり前でしょ。家族とは話しても良いけど、それ以外はダメ」

カバンを持たせたり、部活の片付けを押し付けたりする割に、
クレープを奢ってくれたり、傘を傾けてくれたりする。
凌の考えてることは相変わらずよくわからない。

考えるより早く、悠馬は言葉にしていた。

「俺のこと、気に食わないんだろ?なんでこんな命令するんだよ」
「からっぽの頭で考えてみたら?」
首を傾げてみるが、なんの考察も思い浮かばない。
「ん?うーん…わかんねぇ…」
「やっぱり馬鹿だね、悠馬」
最早馬鹿と言われることにも慣れてきた。

「ヒントくれよ!ヒント!」
「じゃあ…今日の放課後も付き合って」
「そしたら、なんでか分かるのか?」
「わかるかもね」
「よし!絶対凌の思惑を暴いてみせるぞ!」
「せいぜい頑張ってね」

思惑がわかるかもしれないと思うと俄然やる気が湧いてくる悠馬なのだった。
そんな悠馬を見て、凌はまた目を細めて薄く微笑んだ。

桃瀬薫
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