【創作BL】1つのクレープ【#005】
「本当に並ぶのか…?これ」
凌に連れられて訪れた駅前のクレープ屋さんというのは、最近出没するようになったキッチンカーだった。
人が人を呼んでいるようで、かなりの長い列ができている。
列に驚いた悠馬は凌の方を見た。
問いかける悠馬を無視して、凌は列の最後尾に並んだ。
列に並ぶのは女性客か、カップルと思われる男女しかおらず、肩身の狭さを感じる。
並んでいる間も相変わらず無言の凌の横顔をバレないように盗み見た。
紫色に染められた長めのウルフカットが、肩でふわふわと跳ねており、思わず見惚れていると、
「なに?」と、目が合ってしまった。
「あ、いや…キレーな髪だなーと思って」
「そう?それはどーも」
凌は興味がないといったように適当に返事をする。
なぜ髪を伸ばしているのか、とか、いつから染め始めたのか、とか、
話題を広げようと思えばできたけれど、何となくどこまで踏み込んで良いのかわからなくて、悠馬は黙ってしまった。
すると…
「悠馬は、髪染めたりしないの?」
凌の方から話しかけてきた。
「え…」
突然の問いに思わず声が詰まってしまう。
「いや、俺は…特に興味ないかな。伸ばすのも邪魔になるし…」
自身の短髪黒髪は、生まれた時からこの16年間変わらない。
外見に対して無頓着だと言われても否定はできなかった。
「へぇ」
そう短く反応した凌はまた黙ってしまった。
悠馬は、もう少し自分が気の利いた返答ができたらよかったと一瞬悔やんだが、
そもそも無理やりクレープに連れてこられてる自分が会話を盛り上げる必要があるのか?とも疑問に思った。
少し背の高い凌を見上げてみても、その表情からは感情が読めない。
彼は、自分とクレープを食べることになって楽しいのだろうか?
それとも本当に“食べてみたかっただけ”なのか?
悠馬の頭の中は疑問符で溢れた。
「そんなに首傾げてると、首取れるよ」
首を傾げ続ける悠馬を凌は見ていたようだ。
少し笑うように言った凌の声が優しかったので、とりあえず不機嫌ではないということがわかり悠馬はほっとする。
「前も聞いたけど…クレープ、好きなのか?」
だんだんと自分たちの番が近づいている。
悠馬は考えるより聞いてしまった方が早いと口を開いた。
「別に、甘いものは苦手な方かもね」
「え!何だそれ」
「悠馬は?」
「お、俺は…嫌いじゃねぇけど…あんまり食べない…かな」
悠馬の返答にふーんと何やら考え込む凌。
何だよ?と悠馬が聞いてみると、凌は口角を少し上げた。
「じゃあ、クレープ、一個で足りるかもね」
「え?」
「お互いそんなに好きじゃないなら、半分こで良くない?」
凌の提案に、悠馬はなるほどと思った。
「た、確かに!」
「え、良いの?本気?」
「え?めっちゃ良いじゃん、それ。丁度今月小遣い厳しかったんだよ」
一個の方がお得だしな、という悠馬に、提案した側の凌が少しだけ驚いたのを、悠馬は気づいていなかった。
とうとう2人の番になり、一番人気だというストロベリーチョコブラウニーを頼んだ。
自ら注文しようとする悠馬を制し、凌が注文してくれた。
「半分出すよ」
「別に、いらない」
「いやでも…」
カバンから財布を取り出そうとするより早く、
凌が会計を済ませてしまった。
「悠馬はちゃんと命令を守ってくれれば良いの。俺以外と喋っちゃだめ。店員さんともね」
そう言って凌は控えめに笑った。
キッチンカーの周囲に設置されたテラス席に座ると、凌はクレープを悠馬に差し出した。
「先、食べていいよ」
半分食べたらちょうだい。という凌に、悠馬はクレープを受け取ると齧り付いた。
そして、一口齧ったかと思うと、凌へとクレープを差し出す。
「交互に食べれば良いだろ?」
一瞬凌が固まったように見えたが、凌は悠馬からクレープを受け取ると、悠馬が齧った反対側を齧る。
「あま…」
そしてクレープは再び悠馬の元に戻り、その次には凌の元に、を繰り返した。
「俺、兄ちゃんともよくこうやって半分こするんだよな〜」
一つのクレープを食べ終わった頃、悠馬がにこやかに言った。
「へぇ、お兄さんがいるんだ」
「あぁ、結構歳離れてるから、もう働いてるけどな」
「悠馬」
突然、凌がグイと親指で悠馬の唇の端を擦った。
「クリーム、ついてる」
そしてその親指を凌は口元へ持っていくと、ペロリとなめた。
「お兄さんにも、こうやって取ってもらうの?」
「な、なわけねぇだろ!!」
突然のスキンシップに悠馬の鼓動が跳ねた。
かぁっと頬が熱くなり、その熱は耳へと移動する感覚がした。
「も、もう帰るぞ!」
悠馬はその熱を隠すようにカバンを持つと立ち上がった。
「ご馳走様」
そう呟いた凌の方を見ると、今日一番の楽しそうな笑みを浮かべている。
「う…ご、ごちそうさまでした…」
お礼も兼ねてきっちり挨拶すると、凌は自分のカバンを悠馬に押し付けるついでに、
ぽんっと悠馬の頭を撫でたのだった。