【創作BL】相合傘で肩を並べて【#003】
下駄箱で靴を履き替えて建物を出ると、雨粒がぽつりと額を打った。
「あ…雨…」
悠馬は確かめるように手を出すと、ぽつりぽつりと雨粒が掌に落ちてくる。
「何?雨降ってるの?」
靴を履き替えた凌が悠馬の隣に立った。その手には赤い雨傘があった。
「悠馬、傘持ってる?」
「いや…今日は、持ってない」
「そう、じゃあしょうがないから一緒に入れてあげるよ。その代わり俺の鞄持ってね」
「あ、あぁ…サンキュー…」
凌は赤い雨傘を開いた。
悠馬はお言葉に甘えて、凌の傘の中に入ったが、肩が触れ合うほど凌の近くを歩くのは初めてで、歩くスピードがぎこちなくなる。
「わっ」
凌の歩くスピードを意識するあまり、足元の段差に躓いた。
凌が悠馬の襟首を乱暴に掴み、悠馬はなんとか転ばずに済んだ。
「俺のカバン、落とさないでよ。雨で濡れたら最悪だから」
「わ、わーってるよ」
何が入ってるのか知らないが、凌の鞄はそれなりに重量があった。
悠馬は絶対に落とさないようにと、しっかり両腕で抱きしめた。
「それより、なんで俺と一緒に帰りたいんだよ」
悠馬は抱いていた疑問を凌に投げかけた。
彼は自分のことを気に入らないという。なら何故、一緒に帰るように命令するんだろう。
一瞬の沈黙が二人の間に流れた。
黙る凌の顔を悠馬が盗み見ると、凌が口を開く。
「悠馬はさ、いいよね」
「え?」
「いつも友達に囲まれてて…」
「な、なんだよ、急に」
「俺は友達少ないから、ちょっと羨ましい。こうして誰かと帰ることもなかったから、今日は一緒に帰れて嬉しい」
そう静かに、しおらしく言う凌に、悠馬はハッとした。
(そ、そうだったのか…!)
凌の発言を鵜呑みにした悠馬は、言わせてはいけないことを言わせてしまった罪悪感を感じて、慌ててフォローする。
「な、なんだよ!そうならそうと早く言えよ!!俺ならいつでも一緒に帰ってやるよ!!」
(凌、なんだ、かわいいとこあるじゃん…!)
悠馬は立ち止まると、ぎゅっと鞄を抱きしめ凌の方へ向き直った。
そんな悠馬に、凌は微笑んだ、かと思うと…
「…バカだなぁ」
一言、そう言った。
「へ?」
聞き間違いか…?
「なんて、そんな弱音みたいなこと、俺が言うと思った?カバンを持ってくれる人間が欲しかっただけ」
穏やかな微笑みは一瞬にして意地の悪い笑みに変わった。
どうやら揶揄われたらしい。
「はぁ!?おま…凌、ほんとに性格悪いな」
「その性格悪いやつの言いなりになってる気分はどう?」
「うっ…」
ああ言えばこう言う。悠馬がどんな反論をしても、凌に敵うことはなかった。
(やっぱり!こいつめっちゃ性格悪い!!)
悠馬は今すぐこの鞄を捨ててやろうかとも思ったが、
隣でくすくすと笑う凌が、あまりにも楽しそうなので、なんだか怒りもそこそこに、複雑な気持ちになった。
「悠馬」
むーっとしていた悠馬を凌が突然呼びかけた。
「…なんだよ」
「勉強ならいつでも俺が教えてやる。だから、他のやつに頼るなよ。俺だけにしろ」
真面目に、静かに、凌はそう言い放った。
「そんで悠馬は永遠に俺の言うことだけ聞いてればいいの」
片方の口角を上げるようにニヤリと笑った凌のそのサディスティックな笑みに悠馬はどきりとした。
「い、一週間なんて…早く終わればいい…!」
そうだ、さっさと終わってしまえばいい!
売り言葉に買い言葉のように反発した悠馬だったが、これまでこのように話すことがなかった凌と、こうして話して一緒に帰れることは、不思議と嫌ではなかった。
テーピングのお礼は結局まだ言えていない。
もう少し仲良くなったら、絶対に言おう。
…今はまだ、言えそうにないけど…。
「じゃあさ、明日の放課後空いてるよね?ていうか空けて」
「相変わらず勝手だな…放課後は空いてるけど、なんでだよ」
「駅前のクレープ食べに行こ」
「く、クレープ??」
「何、嫌いなの?」
「いや、凌こそ、クレープって柄じゃないだろ。好きなのか?」
「別に、ただ放課後にカップルがよく食べに行ってるから、俺も食べてみたいだけ」
「まぁいいけど…」
「命令ね。他の予定入れたらただじゃおかないから」
駅が見えてきた。
屋根の下に入ると、凌はやれやれといったように傘を閉じた。
「あれ、凌…」
肩が、濡れてる…
悠馬と隣り合っていた肩とは反対側の肩が濡れていた。
「ん?何?」
凌は自分の方に傘を傾けてくれていたのだろうか。
それに気づくと、悠馬はますます困惑した。
意地悪なことばかり言う彼と、優しさが垣間見える彼と…
いったいどちらが本当の彼なんだろうか。
傘のお礼が言いたかったけど、素直じゃない自分がそうさせない。
すると…
「ほんと、むかつく顔」
凌が言った。
「は、はぁ!?」
「そんな顔見せるの、俺だけにした方がいいよ」
「ど、どんな顔だよ…」
「ん?アホっぽい顔」
そう言って笑う凌は、先ほどのような意地悪な笑みではなく、愛おしいもの愛でるような笑みだったので、
悠馬はもう何も言えなくなってしまったのだった。