【創作BL】本当のこと。【#005】

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「湊、この教室にしよ」
蓮は誰もいない教室を見つけたらしく、こっちこっちと湊に手招きしている。
「もう少ししたら誰か来るんじゃないか?」
「この教室、心理学の授業でしか使われてないから。それと、吹奏楽部の練習」
「蓮、詳しいんだな」
「あれ、忘れてた?俺1年の時吹奏楽部入ってたもん」
蓮は誇らしそうに言った。そうだった、確か…サックスを吹いてたような。
「授業が休みになった時、ここで自主練したりしてたから」

蓮は練習熱心だった。愛想がいいから、先輩からも好かれていた印象がある。
なのに、1年の終わりで退部してしまった。
なぜ辞めたのかと湊が聞くと、アルバイトしたいからとなんでもない風に言っていて、
部活に入ることも、アルバイトをすることもできない湊は、
あぁ、高校生って、本当はもっと自由なのかもなと羨ましく思ったこともあった。

蓮が所属していた時の吹奏楽の演奏会は聴きに行ったことがある。
普段とは違う真剣な面持ちで演奏する蓮は、正直かっこよかった。

だからなぜか、彼が部活を辞めたと聞いた時、湊の方ががっかりしたくらいだ。

「湊、こっち来て」

椅子に腰掛けた蓮が、太ももをポンポンと叩いた。
…犬じゃないんだけど。
しかし、悪い気はしない。

湊は素直に、蓮の合図に応じた。
彼の太ももの上に腰掛けると、蓮が背後から腕を回す。

「湊あったか〜、裏庭寒かったね」

若干冷え性の湊も蓮の温もりを感じていた。
自身の指先を擦りながら、自分より高い蓮の温度を享受する。

しかしこの体勢、側から見たらだいぶ恥ずかしい。

「もういいか?降りても」
座ったばかりだが、蓮の顔がすぐそばにあって落ち着かない。
蓮が喋る度にその吐息が耳にかかって、肩をすくめそうになる。

「えー、だめ♡もうちょっと!空き教室だし、誰も見てないよ」

そう言って蓮は更に強く湊を抱きしめた。
誰も見てないからいいとか、そういう問題じゃないのだが…

「俺…足が床から浮いてるんだけど…お前足長ぇんだよ」

腹が立つことに湊の足はつま先が微かに床につくくらいだった。
「ほら、じたばたしないの」
幼児を注意するように言う蓮の声はいつも以上に甘く、そんな声を耳元で聞いている湊は耳にばかり意識がいってしまう。今自分は、どんな顔をしているんだろう。
「湊、いい匂いする」
「なんか匂う?」
「うん、お花みたいな匂い」
「柔軟剤かな」

自分では自分の匂いはわからない。
蓮の腕を引っ張って鼻元に近づけると、爽やかな石鹸の匂いと、手首から仄かにそれとは違ういい匂いがした。
「あれ、香水つけてる?」
柑橘のような香りだ。この匂い、好きかも。
「あ、うん。ごめん、臭かった?」
「いや、この匂い、好き」

クンクンと蓮の手首の匂いを嗅いでいると、途端、再び強く抱きしめられた。
「湊、この間言いかけてたの、なんて言いたかったの?」
「お前、今それ聞くか?普通」
「教えて」
「忘れた」
「嘘」
「嘘じゃない」
「…こちょこちょするよ?」
「やめろやめろ」

この間、と言うのはクレープを食べている時のことだろう。
よく覚えてるな…忘れてくれたらいいのに蓮は変なとこで記憶力がいい。
言いたかったことは、忘れたわけではない。

(ずっと…この時間が続けばいいのに)
思わずそう言おうとした自分がいたのだ。
けれど、そんなことを言ったらきっと…優しい蓮は、それに応えようと頑張ってしまうだろう。
彼の交友関係や自由な時間を、自分のせいで制限したくなかった。

「あー、うーん、まぁ、その、たいしたことじゃない」
「何?知りたい」
「その…ずっと…」

嘘をつくのは忍びない。けど、本当のことは、言えない。

「ずっと…」

ただ静かに、湊の言葉を蓮は待っている。

(本当は…もっと、一緒にいたい)
最近、自分の我儘が暴走している気がする。
蓮といればいるほど、どんどん我儘になっている。

もし、もっと一緒にいたいと言ったら、蓮は一緒にいてくれるのだろうか。
どれくらい、自分の時間を犠牲にして、尽くしてくれるんだろうか。
それを知りたくなる。

けど、これを言ってしまうことは、まるで…

まるで自分が蓮のことを友達以上に思ってるみたいじゃないか…?
そう思うと、湊の顔に一気に熱が昇った。

「ん?」
蓮には、そんな湊の様子の変化は見えているのだろうか。
「な、なんでもない」
やっぱり、言えない。
「2回目は無しだよ。今度言うって、湊言ったじゃん」
引き下がらない蓮に、湊は苦悶した。

「お願い、言って?」
「ずっと、ここのクレープ食べたかったんだよな〜って…」
「湊…誤魔化すの下手すぎ…」

下手な誤魔化しだって自分でもわかってる。
でも、本当のことを言うよりよっぽどマシだ。

強く抱きしめていた蓮の腕から、力が抜けた。
「なーんだ、てっきり、ずっと前から蓮のこと好きだった、って言ってくれるのかと思ったのに」
「言うわけないだろ」
「そう?俺はいつでも言いたいけどね」
「いい加減きもいからやめろ」

蓮がいつもの調子に戻ったようで、湊はほっとした。
しかし…

「本気で嫌なら、もっと分かりやすく拒否してほしいんだけどね」

蓮は先ほどとは打って変わって真剣な声音で続けた。
聞き間違いだろうか?

「え?」
「じゃないとほんと、期待しちゃうから」
「何、言って…」

先ほどから、蓮が何を言ってるのかわからなかった。
何を期待すると言うのだろう。

「冗談だと思ってるの?」
「冗談だろ。ワンパターンだから流石に飽きた」
「冗談じゃないって言ったら?」

教室には二人。
静寂だけが、二人を見守っている。

「俺はずっと、好きって伝えてるんだけど?」

蓮から発された言葉は、確かに湊の耳に届いた。
それが冗談ではないことも、幼馴染だからこそ、わかる。

「蓮、降ろして」
「嫌だ」

きっぱりと拒否した蓮は再びそっと、優しく、湊を抱きしめた。
「湊…お返事は?」
わざとだろうか、内緒話でもするように、耳打ちしてくる。
「ほら、もう予鈴鳴っちゃうよ」

まただ。また、予鈴など鳴らないでくれと思ってしまう自分がいる。
ずっと、蓮とこうしていられたら。
他の生徒も、先生も、母親も何もかもいなくなって、今この瞬間だけを閉じ込めたくなる。

「俺は授業サボっても、全然構わないんだけど?」

けれで、現実はそうはいかない。
蓮の「授業」という言葉で湊は現実に引き戻された。
授業をサボれば、その事実はいづれ母親の耳に入ることになる。

「こ、今度言うじゃ、だめ?」
「もう、それ禁止にするよ」

(キーンコーンカーンコーン)
予鈴がなった。夢の終わりを告げる音だった。

「あっ…」

蓮…冗談でも、ほんとのほんとに本気で言ってくれてたとしても、どっちでも嬉しかったよ。
(授業に行かないと…)
湊は蓮の拘束をすり抜け、立ち上がった。

桃瀬。
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