【創作BL】他のやつには壁ドンさせないで。【#001】

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「ふぅ・・・」
湊は思わずため息をついた。
学級委員の仕事を引き受けてしまったのは、まだ良いが
毎日日誌の記入をしなければならないのは骨が折れる。
おかげで、昼休みだというのに全く休めた気がしない。
集中する湊に話しかけてくるような友人もいなかった。
高校も2年生に進級し、元々少なかった友人とはクラスが離れてしまった。
(学校なんて、勉強しに来てるだけだし・・・)
それでも、教室の一角で騒ぐ同級生を見ると胸の奥がモヤついた。
湊はキュッと唇を引き結ぶと、日誌を片付けて午後の授業の準備を始める。
「みーなとっ」
背後から声をかけられた。
その幼少期から慣れ親しんだ声を聞くと、聴覚の全神経が彼に向いてしまう。
「…蓮、どしたの」
顔を見なくたって誰かわかる。
湊は席から立ち上がり振り返った。
そこにはまばゆい金髪の幼馴染が立っている。
「顔見たくなっちゃった」
と言いつつ、なぜか必要以上に近づいてくる。
高身長なのが腹が立つ。何やら圧力を感じ、湊は壁際までジリジリと後退りした。
すると…
(ドンッ)
普段は表情を変えない湊もぴくりと目を見開いた。
「び、っくりしたー。何?蓮」
蓮は湊を壁際に追いやると、突然いわゆる壁ドンというやつをしてきたのだ。
何が嬉しいのか、蓮は満面の笑みを浮かべている。
「教科書忘れたから貸して♡」
何を言い出すのかと思いきや、蓮の口から出た言葉に、湊はまたかと思った。
蓮は忘れっぽいのか、何かにつけて湊に助けを求めてくる。
いつものことなので最早言葉も出ないが…
「それ壁ドンしなきゃいけなかったか?」
180を超えているであろう高身長が見下ろしてくる。
「こう、湊の顔見たら壁ドンしたくなった」
「いや、何で?」
「今日放課後暇?」
「話聞けよ」
ロッカーあるんだから、教科書置いておけば良いのに。
と、湊が言わないのは、こうして毎度自分を頼ってくれることが嬉しいのかもしれなかった。
「そういえばさ、駅前に美味しいクレープ屋さんできたんだって。一緒に行こ♡」
蓮から出た「クレープ」という言葉に、湊の瞳は微かに煌めいた。
「クレープ・・・?」
「湊甘いの好きでしょ?」
クレープ…食べたい。
普段は母親に甘い物なんて食べさせてもらっていない。
湊の母親が厳しいことを、当然蓮も知っていた。
だから哀れんでくれているのだろうか、何かにつけてあれ食べようと誘ってくれる。
「・・・どうしてもって言うなら、しょうがない。」
「どうしても♡お願い♡」
「お前その語尾に♡つけるのやめろよ、きもい」
「えー!ひどい!かわいいでしょ??」
「可愛くなってどうすんだよ」
「ん?湊のかわいいお嫁さんにしてもらう」
いつもの調子の蓮に、湊は呆れた風を装った。
「いや、俺自分より身長高いやつ嫌いだから」
「まだコンプレックスなの?その低身長」
「うるせ。蓮がでかいだけだろ」
湊はちらと壁にかかった時計を見た。
蓮、もう少し早く来てくれたらよかったのに。
「ていうかいつまで壁ドンしてるんだよ。どけよ」
湊は蓮の胸板を押してみるが、本当に退くつもりがないのか、全く動かない。
「他のやつに壁ドンさせないように守ってる」
冗談にしては真剣なトーンの言葉に、湊は思わず目を逸らした。
動揺してはいけない。いつも冷静でいなければ。母親にも、そう言われている。
「俺に壁ドンすんのお前だけだよ」
「えっっ・・・俺だけ・・・??特別ってこと??」
「そうは言ってない」
そのポジティブで楽観的なところ、少し分けてほしい。
幼馴染だとはいえ、自分に絡んでくる蓮の気持ちが、湊にはわからなかった。
(キーンコーンカーンコーン)
「あ、予鈴だ」
「えー、空気読めない学校だな」
蓮が唇を尖らせた。
「ほら、さっさと隣のクラスに戻れよ」
「放課後クレープね!!絶対!!」
蓮は壁ドンの手を退けると、湊の頭をポンと撫でた。
(幼い頃は、俺の方が背が高かったのに。いつからこんなに大きくなったんだろ)
「わーったよ」
手をひらひらと振りながら、蓮は隣の教室へと帰っていく。
「って、あれ、蓮。教科書は?」
湊の声は蓮に届いていなかったらしい。