【創作BL】裏庭でのひと時【#004】

渡り廊下で繋がれたA棟とB棟の間に、裏庭はあった。
学生の大半は食堂に行くか、教室で昼食を取るため、裏庭は大抵空いている。

湊と蓮は奥まったところにあるベンチに腰掛け、少し体を震わせた。
「あれ、思ったより冷えるね」
蓮は両腕をさすった。確かに、この時期にしては少し冷える。
お昼時の日差しによって、多少暖かさは感じるが吹く風は冷たい。
「ごめん、蓮。寒い?」
「んーん、大丈夫。でも、風邪引いたら大変だからご飯食べたら移動しよっか」
「わかった」

早く昼食を済ませてしまおう。
そう思い湊は、メロンパンの袋を開けた。
ほんのりとバターの香りが鼻腔をくすぐり、それだけで教室で強張っていた肩の力が少し抜けた気がした。

「メロンパン美味しい?」
「ん、美味しい」

蓮は自分の昼食を頬張りながら、そんな湊を眺めていた。
蓮の昼食はいつもお弁当だ。蓮のお母さんが作ってくれているらしい。
「冷食ばっかだよ」という蓮だが、そのお弁当には必ず手作りの卵焼きが入っていた。
それだけで、母親の愛情というものが垣間見える気がして、湊はなんとも言えない気持ちになった。

それは羨ましいわけでも、妬ましいわけでもないんだと思う。
ただ、それがいわゆる普通なのかなと思うと、秋の冷たい風が、身体を貫いて心まで寒くするようだった。

「湊、唐揚げ、いる?」
「え、いいのか?」
「今日は3個入ってるから、1個あげる。はい、口開けて」

蓮に促されるまま、口を開けると、開けた口より大きな唐揚げを詰め込まれた。
なんとか、咀嚼しようと奮闘していると、蓮が笑った。
「美味しい?」
湊はすぐに返答できず、ただ頷く。

「湊のメロンパンも一口ちょうだい?」
湊が返事をするより早く、蓮は湊の手を持つと、そのまま口元に引き寄せた。
湊の一口より大きい一口がメロンパンを齧る。「ん、確かに美味しい」と言う蓮の口の端に砂糖が付いている。
「蓮、口の端、砂糖付いてる」
湊はポケットからティッシュを取り出すと、蓮に渡した。
蓮の指が湊の指に触れ、それだけで全神経が指に集中してしまう。
湊はサッと手を引っ込めると、深く息を吸った。

蓮はそんな湊の動揺に気づいていないのだろう。
「取れた?」と言いながら懸命に口元を拭っている。

こうして外にいると、季節の変化を実感する。
もう、秋になってしまった。そしてあっという間に冬が来て、また、春になる。
高3になれば、きっと今より受験勉強が忙しくなる。
こうして蓮と、昼食を取ることも少なくなるかもしれない。

そうなったら、湊は肩の力の抜き方すら忘れてしまうのかもしれない。

「何考えてるの?湊」
黙り込んだ湊に蓮は声をかけた。
「いや、もう秋なんだなぁって」
「そうだね、早いね」
ひと足先に弁当を食べ終わった蓮は、弁当を片付けながら言った。
「ハロウィンも終わったし、次はクリスマスだね!楽しみ〜」
「気が早くないか?まだ2ヶ月近くあるぞ」
「えー、だってやっぱり、イベント事は楽しまないと!」
「クリスマス、何かする予定なのか?」

問いかけた湊に、蓮はいたずらっ子のような顔をした。

「んー?秘密♡」

秘密と言いつつ何も考えてないだけなのでは・・・と湊は思いつつ、食べ終わったメロンパンの包みをくしゃくしゃにした。

「そろそろ行こっか。どっか空いてる教室ないかな〜」
蓮はベンチから立ち上がると、軽く尻をはたいた。
くしゃくしゃになった袋を見つめていた湊は、それを更に小さく丸め込み握りしめた。

クリスマスは、嫌いだ。
できればそんなもの飛び越して、さっさと次のイベントに移ってほしい。
蓮も知っているはず。湊の父親の浮気が発覚したのはその夜の事だ。
相手は父親と同じ部署の後輩だったと聞いている。

父親と離婚してもなお、母親の機嫌はクリスマスには毎年必ず悪くなった。
クリスマスは、湊にとって最悪の日でしかない。

「湊、早くあったかいとこ行こ?」
「あ…うん」

蓮は湊に手を差し出した。
それは「手を繋ごう」という合図。幼少期から変わらない。
しかしもう、迷子になるような年齢ではない。それに、どこで誰が見ているかわからない恐怖もある。

湊は差し出された手をペシっと叩いた。
「行くぞ」
蓮を追い越して歩き始めた湊の後ろから、蓮が追いかけてくる気配を感じる。
「つれないなぁ、相変わらず」

湊は近場にゴミ箱を見つけると、くしゃくしゃになったごみを投げた。
しかしそれは上手く入ることはなく、ゴミ箱の角に当たって跳ね返ってきてしまった。


桃瀬。
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