【創作BL】自分にできること【#015】


限定メニューが発売されている効果だろうか、
クレープのキッチンカーには、前回来た時より長い列ができていた。

「限定メニュー…結構高いんだな…」
「値段なんて、湊は気にしなくていいの♡食べたいもの食べよ?」
「でも…」

渋る湊に蓮は優しく微笑んだ。
「後で何かお礼してくれたらいいから」
「お礼?」

お礼できることなど自分にあるだろうか。
湊が勉強を教えてあげるほど、蓮の頭は悪くないし…

「何かお礼できることあるか?」
湊が考えた末、蓮に聞いてみると、
隣で笑っていてくれればいいと言われてしまった。

***

「美味しそ〜♡限定メニューは豪華だね!」

結局、湊は限定メニューの「デラックスクレープ」を頼んだ。
蓮は限定メニューではないが、苺が美味しそうなクレープを頼んでいる。
二人はテラス席に座ると、秋の少し冷たい風が心地よかった。

「すごい…かわいい…」
湊のクレープの上には、クマのアイスクリームも乗っかっており、可愛さ満点だった。
「よかったね、湊」
蓮にはいつも頭が上がらない。
湊はアルバイトをしたことがなかったので、あくまで想像になってしまうが、
社会というのは理不尽なことで上司に怒られると聞く。
そんな大変な思いをして稼いだお金を自分に使わせるのは本当に悪い気がした。

「蓮、いつも…本当にありがとう」
「ううん!一緒に食べられて嬉しいよ♡」

そんな蓮は湊の様子など全く気にしていないようで、クレープに齧り付き始めた。

「知ってた?ここのクレープって、一緒に食べると恋人同士になれるって噂があるんだよ〜♡」
蓮が突然そんなことを言い始めるので、湊は頬張ったクリームを吹き出しそうになった。
「え、そうなのか?蓮、知ってたの?」
そういえばクラスの女子がそんな話をしていたかも知れない。
「噂も侮れないね♡」
「そ、そうだな…」

「あれ〜?中原じゃね?五十嵐とクレープ食べてるの???ラブラブじゃん」
突然かけられた声に、湊の口の中のクリームが一気に不味くなる気持ちがした。
嫌な予感ほど的中するものだ。その声の主の方を見なくとも、誰だか分かってしまった。

「…佐伯…」

佐伯は一人、蓮と湊の元へ近づいてきた。

「お前んとこの母ちゃん、厳しんだろ?クレープ買う金もないから五十嵐にたかってんの??」
佐伯はどうやらクレープを買いに来た様子ではなかった。
なぜこんなところにいるのだろう。
鉢合わせしてしまった不運を恨んだ。

佐伯の発言に湊は返す言葉がなかった。
佐伯が言っていることは半分は事実だ。

「だんまりかよ」

佐伯はどんどん近づいてくる。
すぐ隣に立たれると、それに対する嫌悪感で、今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られる。

「それよりこんなとこで油売ってていいのかなぁ?俺らの宿題…」

言いかけた佐伯と、湊の間を遮るように蓮が立ち上がり、間に入った。
途端、ふわりと蓮の香水の香りがした。柑橘系の爽やかな香りだ。
「れ、蓮…」
それだけで、湊の胸は締め付けられた。
立ち上がった蓮の広い背中が、大きい。

「俺たちラブラブなんだよね。察してくれない?邪魔だから、どっか行ってくれる?」

普段話している時には聞かないような低いトーンで話す蓮に、湊はどきりとした。
自分と佐伯との問題に蓮を巻き込んでいる。
その事実に、湊は持っていたクレープを握り締めそうになった。

「んだよ…五十嵐のくせに…じゃあね、湊くん」

蓮が間に入ってくれたおかげで、佐伯はどこかへ行ってくれたようだ。
それでも、佐伯にこうしてあれこれ言われる自分がみっともなく恥ずかしい。

「ごめん、蓮…」

「なんで、湊が謝るの?」

蓮はいつも…優しい…

「俺たち、ラブラブでしょ?」
そう言って、蓮はベンチに座り直し、クレープを齧った。

「やっぱり、…こうして出かけるのは…もう、やめよう…」

思ってないことを言うのって、どうしてこんなに苦しいんだろう。
でも、自分が蓮といることは、蓮にとって何のメリットも…ない。

「本気?」

蓮はワントーン低い声で言った。
一瞬、怒っているのかと思い、湊は蓮の顔を伺ったが、その顔は怒りではなく悲しみを湛えているようだった。

「俺は嫌だな」
蓮の声は、静かに、けれど真っ直ぐに湊の耳に届いた。

「前にも言ったよ、俺は湊のことしか考えてない。他の奴らなんて、どうだっていい…でも湊が、本気なら…尊重する」

きっと蓮も同じだ。
その表情から、思ってないことを言わなければならない苦しさを感じていることが分かった。
そして苦しくさせてしまったのは自分だと湊が自覚すると、やっぱり素直にならざるを得なかった。

「…本気じゃ、ない…」
「手、貸して?湊」

湊は右手を差し出すと、蓮はそっとその手を握った。
そしてそのまま導かれるままに、蓮の顔へと移動する。

蓮の頬に当てられた手は、温かい蓮の手に包まれいる。

「ずっとそばにいるよ、何があっても」
蓮のその言葉は、まるで魔法のようだ。
「れ、蓮っ…」
「俺が、絶対守るから。ね?」
蓮が言うなら、きっと全てが本当になってしまいそうだった。
そうだといいなと、湊は思った。

ずっとそばにいて、嫌なこと全てから守ってほしい。
でもそんなことを望んでしまう自分は、蓮に一体、何を返せると言うのだろうか。

桃瀬薫
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