【創作BL】きれいな嘘と穢れた手【#014】
今日の最後の授業が終わり、湊は蓮が来るのを待っていた。
次々とクラスメイトたちは帰路についたり、部活へと向かっていったりして、教室には湊と他数名の生徒しか残っていない。
正直必要以上に触りたくなかったが、佐伯から押し付けられたノートをパラパラとめくってみると、
ほとんど何も書いていなかった。
もうすぐノートの提出があるというのに、授業を真面目に受けていないらしい。
こんなの、自分が書いたところで筆跡でバレてしまうんじゃないかと思ったこともあったが、
この科目の教員は、全くと言っていいほど学生に関心がなかった。
「みーなと」
その聞き慣れた声が自分を呼んだだけで胸が躍る
「お待たせ〜!クレープ食べに行こー!」
金髪をキラキラと揺らしながら、教室の外から蓮が手を振っている。
その明るい笑顔に、湊の胸の中を渦巻いていた黒い何かがスッと浄化されていくようだ。
「あ、蓮。ちょっと待って。今行く」
湊は慌ててカバンを肩に提げると蓮の方へ向かおうとした。
その時…
「うわっ」
机にしまいきれてなかった椅子の脚に躓き、思い切り転んでしまったのだ。
「大丈夫!?湊」
蓮が駆け寄ってくる気配がする。
思い切り転んだせいで、佐伯たちのノートを辺りにぶちまけてしまった。
「ごめん、躓いた」
「拾うの手伝うよ」
「ありがと」
もう子供ではないというのに、思い切り転んでしまったことに恥ずかしさを感じていると…
蓮は拾ったノートをまじまじと見つめていた。
「あれ、これ、湊のノートじゃないよね?」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
蓮がパラパラとノートを捲る。
「あ、えっと…これは、俺学級委員だから、みんなのノート回収してるだけ…」
「ふーん…にしてはこのノート、ほとんど真っ白だけど…」
なんと言い訳すればいいんだろう。
こういう時には回転の遅い頭を恨んだ。
湊は蓮からノートを引き取ると、視線を彷徨わせた。
「ま、まぁ、気にするな」
カバンにそれらのノートを突っ込むと、スクールバッグのファスナーをきっちりと閉めた。
「い、行こ。蓮。クレープ、食べにいくんだろ?」
カバンから蓮へと視線を移した湊はハッとした。
蓮がただ真っ直ぐに、湊を見つめていたからだ。
「湊、もっと俺のこと頼ってもいいんだよ」
「な、何のこと?これくらいのノート、俺一人で持てるよ?」
「違う、そうじゃなくて…」
二人は教室でしゃがんだまま向かい合っていた。
蓮が湊の手を取る。
「湊、今何か困ってることがあるんじゃない?」
「困ってること?」
湊はそう聞き返しながら、蓮に握られた手を見る。
触らないでほしい。今は…その汚いノートに触れたばかりだ。
「そう、たとえば…」
蓮が言いかける。
でも、蓮もその汚いノートに触れてしまっている。
「他の人の宿題をやらされてるとか」
蓮は、本当に自分のことをよく分かってくれている。湊はそう心から思った。
だからこそ、気づかないでほしいことまで見通してしまうのだろう。
きっとここで、何を言おうと、蓮には全てお見通しなのかも知れなかった。
でも…
「湊?」
「…そんなこと、ないよ。大丈夫」
湊はそう言うことしかできなかった。
自分が嘘をつく時、目を合わせられないことを、蓮はよく知っている。
それでも、蓮はそれ以上追求してくることはなかった。
「わかったよ。じゃあ“大丈夫“じゃなくなったらすぐ言ってね」
「うん、ありがとう」
蓮には綺麗なままでいてほしい。こんな汚い世界に足を踏み入れて欲しくない。
だから言えなかった。
「床、汚れてるから、手洗ってから行こ?」
湊はそう言うことで少しでも彼らと蓮を引き離しておきたかった。