【創作BL】あなたの声【#002】
この弱小なバレーボール部の部員は、全学年を合わせてもたったの4人しかいなかった。
すなわち、大会に出場することはできないが、
廃部寸前だった部の熱心な勧誘に、悠馬は心打たれ、入部を決めた。
しかしいかんせん人数が少ないため、コートはいつも一面だけ準備をし、2対2で練習を行なっていた。
準備は早く来た人が行い、片付けは当番制だ。
今日の片付けは凌の当番だった。
部活が終わり、悠馬は先輩を見送った後、一人帰り支度をしていると…
「悠馬」
凌が声をかけてきた。
何気なく振り返ると、突然、凌に顔を掴まれた。
「な、何すんだよ」
両頬をぐいと掴まれ、強制的に顔を向けさせられる。
じっとこちらを見つめる凌に、悠馬はウロウロと視線を彷徨わせた。
「今日の片付け、悠馬がやってよ」
突然の凌の発言に、悠馬は目を見開いた。
「は?なんでだよ、今日の片付けは俺じゃないだろ」
自分の顔を掴む手から何とか逃れようとするが、凌の力が強い。
凌の手首を握り、引き離そうとするが、離れてくれない。
「は、離せよ…」
身じろぎする悠馬に、凌は鋭く言った。
「言うこと聞けるでしょ?」
その言葉に、悠馬はぴくりと肩を震わせた。
──一週間俺の言うこと聞いてくれる?
先ほど約束したばかりだ。
勉強を教えてもらった手前、約束を破るわけにもいかない。
こんな命令をしてくる凌は、やはり自分のことが気に食わないのだろうか。
「…お前、俺に嫌がらせしたいのか?」
「お前…?」
凌の視線は悠馬に「お前」の訂正を求めていた。
「う…りょ、凌」
呼び慣れない名前を呼ぶ度に、なぜか動揺してしまう。
その動揺を凌に悟られれば、また馬鹿にされそうで、悠馬は隠すように言葉を続けた。
「俺のことが気に食わないならはっきりそう言えよ!」
こんな、弱みにつけこむようなやり方をするなんて、凌は何を考えているんだろう。
すると凌は悠馬の頬をぷにぷにと掴みながら「気に喰わないね。そのアホっぽい顔」と言った。
「なんだと」
「他の人にはヘラヘラ笑ってるくせに。どうして俺にはそんな顔しかできないかな。」
「べ、別に、普通だろ。凌だって、俺にばっかり…当たり強いじゃん」
ヘラヘラと言われると腹が立つが、凌だって、俺以外と話している時はいつももっと柔らかい顔をしている。
何とか言い返してみたものの、凌は悠馬の発言を聞き終わる前に口を開いた。
「ほら、余計なこと考える暇があるならさっさと動く。片付けが終わったら帰るよ」
「へ?帰る?」
「学校に泊まるつもり?」
「なわけねーだろ…何?一緒に帰るのか?」
「命令だよ、悠馬。これからは俺と登下校すること」
「は、はぁぁぁ!!??な、なんでだよ!!」
凌と登下校…?そんなことなど一度も考えたことがなかった。
むしろ凌の方が俺と下校するのを避けているのだと思っていた。
部活が終わると、凌はさっさと着替えて帰ってしまう。
練習の時だって、必要最低限しか会話をすることがないのだ。
「何?一緒に帰りたい子でもいるわけ?それとも、まさか彼女でもいるの?」
「そ、そうじゃねぇけど…お前マジで何考えてんの?」
確かに、まぁ、こんな少人数の部活で、しかも同じクラスだと言うのに仲良くしないほうがおかしい。
凌は自分と仲良くなりたいのだろうか。それとも…何か別の思惑があるのだろうか。
しかし想像力の乏しい悠馬は考えても疑問符しか浮かばなかった。
すると凌が小さくため息をついた。
「何回も訂正しないと学習しない本物の馬鹿なの?悠馬」
「あ、えと…凌」
「いいの?もう勉強教えてあげないよ?悠馬が赤点なんてとったら、部活は活動停止になるよ?」
「うぅ…おま…凌、ずるいぞ」
「なんとでも言ってくれていいよ」
凌の手が離れ、悠馬の掴まれた頬は解放された。
掴まれていた感触の残る頬を悠馬はそっと押さえた。
「一週間は俺の奴隷でしょ?わかった?」
凌の声は不思議だ。
低く艶のある声は、なぜか聞いていて心地良い。
凌の視線がこちらに真っ直ぐ向いているのに気づいていたが、なかなか目を合わせられずにいた。
伺うように視線を合わせてみると、その視線は貫くようにまっすぐに、自分を見つめていて、
悠馬はどきりとした。
不機嫌かと思われたその表情は、嬉しそうにも楽しそうにも見える笑みを湛えていた。
「くそ…」
凌は何を考えているのだろうか。
一緒に登下校すれば、凌の気持ちがわかるのだろうか。
結局悠馬一人で片付けを行うこととなったが、
せっせと働く悠馬を凌は体育館の隅から眺めていた。