【創作BL】1週間の関係【#001】

「なんでこんなのもわからないわけ?バカなの?」
凌は深いため息をついた。
「くそっ…オメーの説明わかりづれぇんだよ!日本語喋れ!」
馬鹿と言われて黙ってられるほど、悠馬は大人ではなかったが、実際自分があまり頭が良くないという自覚はあった。

悠馬は、今危機的状況にあった。
もうすぐ行われる期末試験。その試験にて赤点を取ってしまうと、部活は活動停止になってしまう。
自分のせいで他の部員に迷惑をかけるわけにはいかなかった。

隣にいるこの黒崎凌という男に、勉強を教えてほしいと申し出るのは非常に躊躇われた。
そんな時まさかの、彼の方から「教えようか?」と言ってくれたのだ。

悠馬と凌が犬猿の仲だということは最早クラスでは周知の事実だった。同じバレーボール部に所属しているにも関わらず、だ。

2人の性格の問題だろうか、目が合えば悪態をつき、舌打ちの音が聞こえてきた。
だからこそ、凌が「手伝ってあげてもいい」と言ってきた時には、悠馬は非常に悩んだが
実際、こうして凌の助けを借りなければ、宿題のプリント一枚解くことができない。

「自分の読解力のなさを自白してるだけだって自覚したほうがいいよ」

凌の毒舌は相変わらずだった。
「勉強を教えようか?」なんて優しい提案をしてくれた時には、やっぱりこいついい奴だったのか、なんて悠馬は淡い期待をしたが、そんな期待はあっさり打ち砕かれた。

「だから違うよ、ここはその公式じゃなくて…」
「こ、こうか…?」

悠馬は懸命にシャーペンを走らせた。
数学は特に、悠馬の苦手な科目だった。

隣に人の気配を感じながら問題を解くのは少し緊張する。
一文字一文字書く度に、凌が小さく頷いた。

「ん、やればできんじゃん」
「お、おう…」

始めてから30分。なんとか部活の時間に間に合った。
一枚のプリントを解き切ったという事実に、悠馬は達成感を感じ大きく伸びをした。

「やっと終わったね」
凌もほっとしたようだ。お礼を…言うべきだろうか。
いやいやと悠馬は頭を振った。この一枚のプリントを解く間、何回罵倒されたかわからない。

「これで次のテストは満点だな!」
悠馬が自信満々に言う。
「まぁ、補習は回避できそうだね。ギリギリ」
凌は筆記用具を片付けながら冷めた様子で言った。
頑張ったのだから、少しくらい褒めてくれてもいいのに。

さて、と、悠馬は部活に行く支度をしようと立ち上がった時、
凌がこちらを見ているのに気づいた。
「な、なんだよ」
悠馬より少し身長の高い凌が見下すように少し笑った。

「で、お礼は?」
「あ?お礼?」
「タダで教えるわけないでしょ。やっぱりバカなの?」

黒崎凌という男はこういう奴だということを悠馬は忘れていた。
この男がタダで勉強を教えてくれるわけがない。

「なんだよ。金かよ」

恐る恐る聞いてみた。
しかし、凌が金銭を要求してくるような男には思えなかった。

「お金はいらないよ」
「じゃあ何が欲しいんだよ」

凌はあたかも最初から決めていたように口を開いた。
「んー、じゃあさ、一週間俺の言うこと聞いてくれる?」
その瞳は、有無を言わさぬ支配力がある。

視線に屈しそうになるが、悠馬は反抗した。
「はぁ!?なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ!!」
「宿題、手伝ってあげたのは誰だっけ?」
「う…」

反論しても、またねじ伏せられる。
でも不思議と、腹は立たない。
なぜだろうか。いや、本当はわかっているのだ。
あの時凌がテーピングしてくれた左膝が疼いた。

たった一度だけ凌が悠馬の膝をテーピングしてくれたことがあった。
部活で足を痛めた時のことだ。

──痛くない?大丈夫?

あの時の凌は別人のように優しかったのだ。
悠馬はその時の凌のことが忘れられずにいた。

本当は、優しいやつなんじゃないかと…

「じゃあまず最初に、俺のことはちゃんと名前で呼ぶこと。わかった?」
「名前?いつも呼んでるだろ、黒崎」
「違う、下の名前で呼んで」

その言葉に悠馬の心臓が跳ねた。
悠馬が名前で呼ばないのは唯一、凌だけ。
入学して同じクラス、同じ部活になったものの、名前で呼ぶきっかけを逃し続け、
唯一凌のことだけは苗字呼びのままだった。

呼びたいとは思っていた。けれで、凌だって、悠馬のことを名前で呼んだりしない。

「な、なんで俺が…お前だって、俺の名前呼ばねぇだろ」
「赤点取ったら部活出られなくなるよ。悠馬」
「うぅ…」
「返事は?」

彼に嫌われていると思っていた。
けれど、もしかしたらそうじゃないのかもしれない。
だけどそこで「はい、わかりました」と笑顔で答えるような素直さは悠馬にはなかった。
あくまでも不服なように振る舞うことでしか、自分を表現できない。

「わ、わかったよ!一週間だけな…りょ、凌…」

一週間だけ。

呼び慣れない名前を口にした時に感じたのは、ただ嬉しさだけだった。

桃瀬薫
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